第十章
──細い首に突きつけられた鋭利な刃。
誰もがダークリンクに目を奪われていたその時集団より離れた位置でハルを捕らえ人質だとばかりに注目を集めたのはなんと一時的に行方を晦ませていたスピカだった。
「動くなよ」
スピカは改めてダガーナイフをあてがう。
「……返してもらおうか」
「同等の価値があるとは思えないが」
しかし現在ベンゼルが憑依している状態であるルキナは呆れたように目を細める。
「これ以上にない取り引きだと思うがね」
──大丈夫だ。
洗脳にかけられても尚正義の本質というものが根強く生きている連中であればどんなに天秤に掛けたところで結局過剰なほど毛嫌いする悪の思考は皿ごと捨てられる。
……仲間の命は正義そのものだ。
司令塔の意思がどうあれ敵うものか。
「……くく」
はたと。零れた笑みに。
「何か勘違いをしておられるようだな」
スピカはゆっくりと顔を上げる。