第一章
にやりと口元に笑みを浮かべるのを見てクレイジーは思った。
……ああ。楽しんでいるな、と。
実際自分の視点から見ても面白い展開だとは思う。未確認勢力に属するその人間はルール違反を犯したそれだけなのか、それとも明確な目的があるのか。
「相手は分かってるんだよね?」
「ああ。だが、ただのデータ不良という可能性もある」
クレイジーは眉を顰めた。
「……それも探れないってこと」
どうやらあちらも情報について厳重にロックをかけているらしい。
「ま、此方としても“作れない”というだけで今のところそれ以上の不便はない」
「放っとくの?」
「そうは言っていない。ただ」
マスターは此方を振り返って言った。
「……知らない方が面白いだろう?」
こぽ。こぽこぽ。
瞼がうっすら開いて赤の瞳を覗かせる。
「いつになったらあそべる?」
硝子に手を触れて覗き込みながら、それまでの緊張した空気を破るようにタブーが訊いた。
「個人差があるからな」
液体の中で髪が揺れるのをじっと見入る。
「……そいつなんかは早いんじゃないか」
「ほんとうっ?」
マスターが付け足すとタブーはぱっと顔を上げた。
「……じゃあ」
向き直り、笑いかける。
「たのしみだね」