第十章
ルキナはハッと目を開いた。
「この世界を深い眠りに陥れた舞台役者サマが初歩的なミスたぁな」
金属音高らかに弾き返して再び交える。
「なぁ?──放浪の悪魔ベンゼル」
深く睨みを利かせながらその名を口にした途端悪魔は正体を現した。少女には似合わぬ妖しい笑みを浮かべて双眸を紅く紅く染め上げる。
「これはこれは。勇者の影を誇る者がすっかり飼い慣らされているものとお見受けする」
「その程度の言霊で惑わされると思うなよ」
踏み込み、体勢を崩させて剣を払えば恐ろしくあっさりと剣を握っていた彼女の右手が鮮血を散らせながらはねられた。しかし今度は先程よりも早く蒼白い光が右手を新たに創り出し振り落ろされた剣を寸前で白刃取りする。
「果てなき創造に勝るのは対の破壊のみ」
「は、片割れを差し出せって?」
「芸術を語るならシンメトリーでなくては」
「戯れ言を」
ダークリンクは剣を引く。
「──差し出すのはテメェの方だッ!」
そうして繰り出したのは剣による攻撃ではなく回し蹴りだった。防御の構えをすり抜けたそれは彼女の脇腹に容赦なく入り込みそのまま跳ね飛ばす。司令塔が攻撃を受けたことにより光の魔法を展開していたパルテナの洗脳の糸がほんの一瞬だけ緩み結果として魔方陣が失せた。
「い、ッづ……火傷だらけ」
「よくもやってくれたなァ正義厨ども」
ようやく解放を得て次々と立ち上がり復帰するダークシャドウを前に狼狽える正義部隊。
「動くなッ!」
叫ぶ声。注目を掻き集めたのは。
「この俺に……こんな真似をさせた罪は重いぞ……フォーエス部隊──!」