第十章
不愉快な音が足を伝った。
我に返って硬直する。足下に転がったそいつはもう何を零す様子もなく伏せたままぴくりとも動かなくなってしまっていた。その下に赤々とした水溜りが広がるのを確かに目に留めて。
「リーダー」
宥めるように呼ぶ優しい声はこれが初めてではなくきっと何度目かだったのだろう。そうして直前まで乗せていた足をそろそろと退けると。
……そこには。
不自然な方向に折れ曲がった腕が──
「……悪い」
負の感情に呑み込まれ声も届かないままこんな結果を生み出してしまうとは。ぽつりと零れた声に片時も傍を離れなかったダークウルフも同じく小さな声で「いいえ」と返すだけで。
、……水を打ったような静寂は。果たしていつからだったのだろう。赤い地面に伏した正義の戦士達はもう誰一人として動く気配もない。
それでも。まさかやり過ぎたなどと己の行為を後悔するはずもなかった。
今日この時を迎えるまでずっとこの景色を思い描いては望んできた。黒い感情に支配されないように思考を律しながらずっと。
……ずっと。この瞬間を"歓喜"した自分が表に感情を飛び出させてしまわないように。
「はー。楽しかった」
ダークフォックスは頬に付着した返り血を拭い去って満足げに笑みを浮かべる。
「どうします? 焼き払いましょうか」
「……いや」
あいつらと同じように。
「……捨てておけ」