第十章



──脳裏に焼き付いた紅い景色。これから知る筈だった世界の半分も知らないまま惨たらしく人の身を散り散りに晒された彼らが何を思っていたのかさえ知る術も。

もしかしたら。今いる彼らと同じように人間と変わらない思考や感情が生まれて白黒の世界は沢山の色に満ち溢れていたかもしれない。

……、それなのに。

こいつらの勝手な都合で。


「何も知らない癖に」


思考も感情も機械的で自分の身に何が起こったのかそもそも死に直結する痛みが本来どれ程の恐怖を与えるものなのか。実際のところは何も考えていなかったかもしれない。

でも。それは。

彼らがまだ分からなかったというだけで。


奪ってもいい理由にはならないのに。


「何も知らない癖に」

繰り返す。

「……何もッ!」
 
 
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