第一章



マスターはタブーの傍までやってくると、円筒を見つめた。

……二つ並んでいる。そのどちらもがまだ他の誰も迎えていない。

「クレイジー。俺がどうやってダークシャドウを作成したか分かるか?」

急に話を振られて、

「えっと、」

ほんの少し慌てた後に。

「ダークリンクの血液と目的の人間の毛髪、それから影を作り出す微生物、影虫を使って作るんだっけ。それから長く人の姿を維持できる状態まで成長するのに十年くらい? その間にも元あるデータを組み込ませたりってやつ」

マスターはこくりと頷いて、それから自身の右手を見た。

「……“この力”が体に馴染んだ今ではそこまでの時間はいらない。ただどうしても作成できない人間が二人ほど」
「それがあの新しい正義部隊の連中ってこと?」

言葉は返さなかったがマスターは密かに影を落とした。

「……有り得ないことだってくらい、分かるだろう」

マスターは円筒の硝子に触れた。

「“この世界”のありとあらゆるものが創造の神たる俺の所有物だ。世界の法則を捻じ曲げるような違反行為さえ犯さなければどんなものにだって触れられる。特有の戦士のデータをコピーして擬似的に取り出すことも」


――それが、出来なかった?


「兄さん」

クレイジーが呼ぶとマスターは目を細めた。

「……ルールを破って潜り込んだ鼠(イレギュラー)がいるらしいな」
 
 
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