第十章
風が吹く。鼻につく匂いを乗せて。
「いいんスかぁ?」
黒い狐は銃のトリガーガードに指を掛けてくるくると回したり弄びながら問う。
「独断でこんなことして」
亜空軍所属。偽物集団ダークシャドウ。
彼らがこの地を訪れていたのは彼らを指揮するクレイジーハンドの命令あってのことではなく指摘の通りダークシャドウのリーダーを務めるスピカの完全なる独断だった。
確かにこの天空大都市レイアーゼは白煙を上げていなかったことからいずれはこうして仕掛けなければならなかった訳だがそれでも当初は最後に攻め込む予定だった。加えて命令無くして動くとは言語道断。あの破壊神に知られたら、どんな罰が下されるか想像したくもない。
「関係ない」
けれど。スピカは怯える素振りなど見せず即答して歩き続ける。そうして目指す先に別段何があるという話でもないが彼なりに現状況というものに落ち着いて足も止められないのだろう。
「悪くない気分ですね」
生温かく手に残った感覚や、匂い。余韻に浸るかのようにダークファルコがぽつりと呟く。
「……いいか」
スピカはようやく足を止めた。
「手筈通りにやれ。絶対に間違えるなよ」