第一章
……おとうと。かぞく。
その甘美な言葉の響きにタブーは一瞬にして魅了された。
「……こら」
円筒の中をじっと覗き込むクレイジーを視界の端に見つけてマスターは叱った。
「思春期の男児か、お前は」
「いやぁ、」
クレイジーは気恥ずかしそうに笑って。
「……だって裸じゃん」
やれやれと息を吐く。その傍を通りすがりタブーは並べられた円筒を眺めた。
そう。円筒に満たされた水色の液体の中には“人”が入っているのだ。見慣れぬ少年少女に女性、男性。生身の体で膝を抱えて眠る……人、人、人。
「……?」
ふと目の留まった円筒の中には、液体が揺蕩うだけだった。
「マスター。いないよ?」
タブーは指をさして振り返る。
「ああ、それか」