第九章
……痛みは。
いくら待っても襲ってこなかった。
「は」
ゆっくりと瞼を開くと。
「どうしたの」
カービィの手首を掴んでいたのは。
「……もう、いい」
ぽつりと呟いたマルスを前に驚きを隠せないでいるのはカービィの方だった。
「なに、気が変わったの?」
そうは言うも彼は握る手に力を込めるだけで。
「あたたっ」
詳しくは答えない。
「はぁ」
調教師のように鞭打つことにそれほど執着しているはずもなく如何にも呆れた様子で息を吐き出したカービィは鞭を持つ手を緩める。
「分かったよ」
それぞれの内側にある思いなど知らぬ顔で。
「ほんと」
手放された其れは。
「ご貴族様は気分屋なんだから」
ただ。終わりを告げるかの如く床に落ちた音を静寂に響かせるのだった――