第九章
「絶望の未来を覆すことが叶えば、この時代の私は未来で烙印を押される事は無いでしょう。であれば何故、私が、私だけが運命を覆しても尚背負い続けなければならないのか」
かつて未来を変える為に時間遡行を行ない邪竜ギムレーの企みを阻止したルキナにとってどれだけの屈辱だったことだろう。
「……ルキナ」
「許してください」
彼女の頬を一筋の涙が伝う。
「"もう遅いんです"」
次の瞬間だった。
ルキナを中心にして強風が巻き起こり、彼女の"中"から黒い煙が溢れ出した。己の身を庇うようにして腕を構えて目を瞑っている状態ではその言葉の意図を探ることさえ儘ならず。
「くく」
けれど零れた声にハッとした。
「いつまでも、何処までも」
収まっていく風に従って構えを解く。
「脆い生き物だな。……人間は」
――ルキナの声じゃない。
「あなたは」
姿形こそ変わらないものの先程の様子と打って変わって薄く笑みを浮かべるこの人はきっと、いや絶対に自分の知っている彼女ではない。
「ああ。答えよう」
その人は胸に手を置いて告げた。
「私の名は――"ベンゼル"」