第九章
……何が起こったのか。分からなかった。
「君の意見は聞いていないよ」
ぽつりと呟いた彼の手に握られていたのは凡そ一国を担う王子という地位とは似合う筈もない棒状の柄に長い革紐を取り付けた道具。致命傷にならない程度に対象へ苦痛を与えることを目的としたそれは主に拷問や調教で用いられる。
嗚呼。間違いなく。
「本当にやっちゃうんだ……」
一部始終を目前にして思わず呟いたカービィをマルスが横目に見た。もちろん睨んだつもりはなかっただろうが受けた視線に棘を感じたのかカービィは素早く目を逸らすと口を閉ざして。
「この僕に。二度も言わせる気かい?」
それだけ酷く打ったのだろう。確かにいつもの厚手のコートこそ着ているがそれでも打たれた箇所は内側に着ていたシャツが僅か窺える程に痛々しく裂けてしまった。
彼は本気なのだろう。実際にそれを振るわれたからといって自分には恨む理由もない。
全ては護るべきもののために。
「……話せません」
苦渋の色を浮かべながら振り絞るように。
「あぐッ」
二度目の鞭が打たれた。そこで頬を掠めたとはいっても単純に擦るのとは痛みの程度が違う。
「……絶対に」
それでも。
「絶対に僕は話さない!」