第九章
一陣の風が吹いた。両腕で己の身を庇うようにして怯んでいる内足下にぼうっと紅の魔方陣が浮かび上がる。気付いたのも束の間それは眩い光を放ち始めたちまち身体を包み込んで――
「、……」
そっと目を開いて構えを解く。
照明は暗く設定されているようで辺りと状況は掴みづらかったがそこは間違いなく司令塔の中程にある大ホールだった。一見してただ無駄に広いだけと窺えるこの場所は特別な人間のみが招かれる音楽会や演劇会が知らず知らずの内に比較的定期で開かれている。
けれど当然ながら今日この日何かが行なわれるなど聞いた試しはない。仮にその予定があったとしても招かれるような側ではないのだが……
「やっと、起きましたか」
聞き覚えのある声に小さく目を開いた。
「……ルキナ」
藍色の髪をはためかせて振り返る彼女は何処か憂いを帯びたような沈んだ色の目をしていて。彼女が次に口を開くまで、ただその場でじっと目を見張る他なく。
「マークさんはどうしたのですか?」
けれど次に放たれた言葉に硬直が砕かれる。
「あんな作戦、聞いていないわ」