第九章
……身体が。鉛のように重い。
自分が仰向けに寝かされていることに気付いても尚それ以上の思考が上手く働かずにぼうっと天井を見上げているばかりだった。それでも、次第に頭が覚醒して意識がはっきりしてくると目まぐるしい速度で記憶が再生されて。
「兄さんッ!」
布団を固く握り締めて浅く息を弾ませる。自分でも冷や汗が頬を伝うのが分かった。
「ッ、!」
直後に扉を叩く音が聞こえて其方を振り返る。此処が自室だと分かった以上何を心配する必要もないはずなのに落ち着かない心臓に、思わず布団を握る手に力が篭ってしまう。
本来なら……応えるべき、なんだろうけど。
「……、」
此方の反応がないと見るや否や扉の向こうの相手は引き返したようで音が止んだ。勿論足音が遠ざかっていくのを聞いた上での判断だ。
言い知れない不安の原因は反対側に配置されたベッドで眠っている筈の兄の姿が見当たらないということも関係しているのだろう。ようやく落ち着いた心臓をいい子だと宥めるようにして胸に手を置くと。
私は。
意を決したように顔を上げた。