第九章



……嫌な使い方をしたな。

「珍しいじゃん」

靴音が響く。

「あんたが嘘を」
「嘘は言っていないさ」

螺旋状の階段をゆっくり降りていく。ひんやりとした空気が肌を触れながらぐるぐると。

「今頃泣いてるかもよ」

くすくすと笑って。

「……天国で」


エックス邸には地下がある。今はもう使われていない物置部屋の傷んだ戸棚の後ろに隠されるようにして一眼には分からない木製の扉が。

螺旋階段の中央を突き抜けるコンクリートの柱はこうも暗い中だと若干判別つきにくいが下に降りていくと半ばから厚いガラス製となり内側には未だ尚処理されていない薬品やホルマリン漬けにされた何物かの群れが保管されている。

そんな不気味な地帯を過ぎれば。


あるのだ。

かつて創造神がその愛しい弟の器を造り出す為だけに用意された一室が。


建て付けの悪い灰色の鉄製の扉を軋ませ開けば真っ白な世界が迎えた。けれど昔と異なるのは焦げ跡や錆びた跡が酷く目立つという点と。

「待たせたね」

鳴る鎖の音に目を細める。

「マーク」
 
 
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