第八章
「ルーティ」
その時。ゆっくりと口を開いたのは。
「僕に任せてみてくれないか」
青の王子は憂いを帯びた瞳でかつては自分を見かける都度英雄王と呼んで駆けてきた愛しい後輩の立ち位置なる軍師の顔を見下ろす。
「考えがあるんだ」
何かを言うよりも先に阻んだ。
「……マルス」
「いずれ話さなければならないことだろう」
ルーティは不安と疑問とが入り混じった表情でじっと視線を送り続ける。
「頑固なんだから」
「僕は人より少し嘘が嫌いなだけだ」
「少し、ねぇ」
小さく息を吐いて彼という人間、その性質を昔から目にしてきた幼馴染みへと目を向けると、これまたその人もこうなるとどうにもならないといったように肩を竦めてみせた。
「ま、いいんじゃないの」
「良くはありませんが」
諦めたように瞼を伏せて。
薄く開いて逸らす。
「……潮時でしょうね」
幼馴染みの声が遠く木霊する。
今にも雨が降り出しそうな曇天だった。導きの光が地上に差さないこの天候こそがまるで僕たちの現状を表しているかのようで。
それでも、僕たちは。
……信じるしかないんだ。
とても静かで弱々しい風が吹いた。
その風が事態を知らず眠るマークの髪を微かに揺らすのを、ルーティはただ複雑そうな表情でじっと見つめているのだった。……