第八章
此方に目掛けて一直線に飛んできた銀色の矢を振り返って見るまでもなく、瞬時に紅の閃光で撃ち落とし遅れて零度の視線を向ける。
けれど其処に人の姿はなく幾つかの黒い羽根が舞うだけだった。正体は知れど追って仕留めるつもりにまではならずクレイジーは兄が消えたその場所をもう一度見下ろす。
「……兄さん」
視線を受けたあの時。
兄が何を考えているのか分からなかった。
何もかも余さず見透かしている様子だった兄がどうして制止を促したのか。何か意図があるにしても最悪の事態を免れる策はなかったのか。
……第四正義部隊。
僕たちは何処まで奴らの語る"絶望の未来"とやらに関わっている――?
「クレイジー様」
次に現れた黒曜の翼を持つ少年は今度こそ己が従えている部下に違いなかった。
「……分かってるよ」
それは皆まで言わずとも読めていたこと。少々投げ遣りに吐き捨てて紡ぐ。
「撤退しろ」