第八章
当然、程なく訪れようとしている危機にその弟たるクレイジーが気付かないはずもなかった。すかさず参じようと姿勢を低く構えるも此方を見上げる兄の視線に気付いて留まる。
その直後。魔方陣の中心からそれぞれ赤紫色を帯びた鎖が飛び出してマスターの三肢の首と左肩の付け根を容赦なく捕らえる。けれどそんな事態にも関わらずマスターは無理に引いて解こうなどといったことをせず静かに瞼を閉じると。
続け様頭上と真下に現れた蒼い魔方陣にまるで身を預けるかのように。最後まで抵抗を見せぬまま身体の端から粒子となり消えていくのを、果たして感じているのか否か。
知る由もなく。
……何が、起こった……?
「っ……」
戦闘を一時中断していた戦士たちがその目にしたのは捕らえられたマークを救うべくか参じた創造神ことマスターハンドがまるで待ち構えていたかのように現れた謎の魔方陣に跡形もなく吸収されてしまったということ。
……あの魔方陣は?
「おい……どうなってやがる」
状況を掴めないのでは動きようもなくウルフは訝しげに眉を寄せる。
「僕だって」
混乱している場合ではないのだろうがいい加減思考が追いつかなくなってきた。ここまでの流れを詳細的に説明してくれる人間がいるのなら早急に連れてきてもらいたいところだ。
「……マスター、様……?」
ダークウルフは困惑した表情を浮かべている。
それだって演技かもしれないが事実なら彼らにとっても不測の事態であるらしい。