第八章
応えるべくか僅かに口を動かして。
「っ、」
小さく呻いて頭を抱えたのは直後のこと。
その仕草に誰も疑問符を浮かべたが当然のこと理由を告げる筈もなく。紅色の双眸をゆっくりと擡げてミカゲは改めて口を開く。
「時間、が……」
苦しげな声は何かに争うかのように。
「……未来……は」
地面が大きく揺れた。足を踏み堪え転倒は免れたがその一瞬気を取られた隙にミカゲは木の葉を残して消えてしまった。それこそ呼び止める間もなくルーティは静かに息を呑んで。
「はああぁあああっ!」
叫ぶ声を辿るようにゆっくりと振り向く。
……いったい。
何が……起ころうとしてるの……?
「くっ」
金の閃光が手元に残る。今しがた全力を注がんとする魔術を放ったもののそれこそ何てことはないかのように邪竜を象る黒い影が見下す。
「ぅ、ぐ……ッ」
その間にも魔力を養分として吸収される兄の力がみるみる内に抜けていくのに。
「……っ」
ルフレは振り向いた。
「何をしているのよッ!」