第八章
……え?
ルフレは呆然としていた。何故、彼女は笑っていられるのだろう。予測していなかった事態にどうして平気な顔をしていられるのか。
――未来を変えられなかった?
「うわああぁああぁあっ!」
はっと目を開いて振り向くとそこには黒い煙のようなものに巻き付かれ、掲げられる双子の兄マークの姿があった。肉親の危機とあらば声を上げるより先に自然と体が動く。
「うぅっ」
だがしかしそれを阻止するか嘲笑うかのように風が激しく吹き荒れた。思わず足を止めて己の身を庇うルフレだったがそっと目を開いた先に真実の姿を捉える。
「……まさか」
黒い煙が模したその姿は。
「邪竜……ギムレー!?」
……空は陰り。世界に不穏な影が落ちる。
今度の事態に流石のルーティとスピカも勝負の手を止めているようだった。かといって決して警戒の糸を緩めたわけではないが事態の根源である方角へ双方共に注目を置いて。
「何が起こってやがる」
顔を顰めて呟いたウルフを振り返らずに。
「……分からない」
ルーティは眉を寄せる。