第八章



不穏な空気が体感温度を冷たく仕上げる。他の者には決して理解し得ぬ言葉を繰り返し呟いて双子は黒を纏った詠唱を。


来れ。来れ。


宵闇より招かれし親愛なる竜よ。

我等は深き眠りより喚び醒ますもの。


喰らえ。喰らえ。

未来を塞ぐ真なる闇を。


暗く果てなき胃袋へ還し給え――!


漆黒の魔法陣は応えるように光を放ち恐ろしい風が吹き荒れた。

其れによって事態に気付かされた殆どの戦士が戦闘を中断したことだろう。だがこれは元より忍ぶつもりで行なったものではない。こうして多くの注目を集めている隙に真なる目的を達成する、謂わば茶番のようなもの。

怪しげな詠唱に派手な演出がかかればさぞかし恐ろしい獣が召喚されるのだろうと誰も勘違いをするだろうが、此れだって実際は巨大な竜を模した黒い影が現れて脅かすというだけでこれといった害は特にない。……

強風を浴びながらルフレが腕の間からちらりと兄の方に視線を遣ると気付いたマークが小さく頷いた。詠唱に誤りがあるはずがないのだから自分たちの役目はこれで終いだ。

後の仕上げは既にターゲットであるルーティの近くまで接近し、そのタイミングを窺っているはずのミカゲに任せる他は。
 
 
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