第八章
あの時は、まだ。
時間があると思っていたのだ。
突如として下された総員出動命令。今日受けていた全ての依頼任務を払っての最優先事項。
いつ如何なる場合においても誰より常に冷静な視点から状況を見据え判断を下す正義そのものとも等しい彼がどうして周囲を大きく巻き込む形で予定を変更させたのか。
……日を改めて。説得できるだけの時間はまだ残されていたはずなのに。
「ロック!」
無機質な靴音の冷たさを拒むように声を上げてその背に追いついた。腕を掴んだが素直に足を止めてくれたことにほっとする。
けれどそうして振り向いて見詰めた彼の瞳は。
「兄さん!」
――凄まじい爆発音が鳴り響いた。
今現在行われている彼らの戦闘による流れ弾が民家に被弾して小爆発を引き起こしたらしい。
「っ……」
現実に引き戻される。
「どうしたんだ」
声をかけたのはロックマンだった。
「ご、ごめん……少し考え事をしてて」
「気をつけてください」
ルキナが厳しい目を向ける。
「接近すれば攻撃は今以上に激しくなります」
「気持ちは分かるが気を引き締めろ」
視線を戻し、冷めきった口調で言い放つ。
「お前たちはこの作戦の"要"なのだから」