第八章
ルフレはきょとんとした。
「……ルキナが?」
彼女の疑問も全く同じものだろう。時刻はもう午前零時を回ろうという時に此方と同じく何も持たずに部屋を訪れるなどとは。
「珍しいだろう?」
「話は聞かなかったの、って聞かなかったからここに戻ってきているのよね」
深く考える問題でもないだろうがタイミングがタイミングなだけに気に掛かってしまう。
「仕方ないさ」
考えるのを諦めて息をつく。
「また日を改めて説得してみよう」
「そうね。その時は同行するわ」
ルフレは深く頷いた。
「さ。そろそろ寝ようか」
妹が静かになった頃を見計らってそれまで読んでいた本を閉じて枕元に置き、消灯して寝床に潜り込んだ。ひんやりとした敷布団を心地よく感じながらふと窓の外へ目を向けると、何でもないような星々の輝きが一層眩しく思えて。
こんなにも世界は平和なのに。
信じていないというわけじゃない。けれど自分たちばかりが躍起になっているこの現状を思うと本当は知らないままでもよかったんじゃないかとさえ思う。本当に知らないままでいたならただの日常をどれだけ愛おしく感じたか。
……取り戻せるのなら。
密かに眉を顰める。
そうして。未だ迷いの拭い去れない自分を疎ましく感じながら様々な感情を閉じ込めるようにマークは静かに瞼を閉じるのだった。……