第八章
……遡ること、数十時間前。
天空大都市レイアーゼ中央司令塔、内部。四階にあるフォーエス寮。
「ロック」
淡々と万年筆を走らせ書類を片すロックマンに扉の向こうからノックの後、ひと声かけて彼の部屋に入室するのはマークだった。とんとん、と作業の終えた書類をひと纏めにして揃えるとロックマンは机の端に除けて視線を上げる。
「……もうこんな時間か」
壁時計を見上げて窓の外に目を遣った。
最後に見た空はまだ橙色だったはずだが今ではすっかり紺碧の色に塗り替えられて宝石箱を返したような美しい星の群れが煌めいている。
「お疲れ様」
マークは小さく笑って。
「全く。此方が活動を再開するや否や人使いの荒いことだな」
そうは言うがこうして雪崩のように舞い込んできた任務も依頼も何ひとつ取り零すことなく的確な指示で且つ無理もなく丁寧に捌ける彼の仕事への徹底ぶりは感心するものがある。
「信頼されている証拠じゃないか」
「はは。有難いことだ」
そう言ってくすくすと笑い合う。
けれどそれも不意に止むとロックマンは何処か憂いを帯びた表情で。
「……話があるんだろう」