第八章
それに。
ルーティはゆっくりと体勢を正しながら切れた口端に滲む血を手の甲で拭って睨みつける。
――上空。攻撃の手の届かない圧倒的安全地帯から悠々と見下すのは亜空軍の主将。マスターハンドとクレイジーハンドのふたりだった。
撤退が許されるのなら多少の被弾は顧みずに撤退して体勢を立て直したい。それが許されないのはマスターとクレイジーが創り出したのであろう半透明の障壁が半径何百メートル程か丸く囲っていたからである。其れにはどうやら攻撃判定があるらしく少なくとも内側から外側へは突き抜けることさえ出来ない。
……計画的だ。彼らは今日この時奇襲を仕掛けることを密かに裏で企てていたのだ。
接触を避け続けたとしたとていずれ戦うことになったであろう相手だ。それは分かっている。
でも。
「スピカ!」
何かが引っ掛かる。
「こんな形で戦うのは納得ができない!」
ダークシャドウの指揮をとるのは無論リーダーであるスピカの他ない。
「理由があるならっ」
「……うるさい」
ぽつりと呟いた。
「その名前で俺を呼ぶな」
ギリっと奥歯を噛み締める。
「俺は……」
スピカは顔を上げて。
「俺はダークピカチュウだ!」