第七章
走れ、走れ。
息を弾ませて木々の隙間を縫うように。
「くっ……」
何を期待していたんだろう。
黄昏の色が青天を染め上げていく。そんな一日の終わりを告げる頃、スピカは地上世界にあるとある森の中を形振り構わず走っていた。
いつかのように追われて逃げているというだけならこうも汗を滲ませその上顔を歪ませていることもなかっただろう。連絡を受けて直ぐさま飛び出したが状況は絶望的だ。自分がどうにかできるはずもないが間に合えと願いながら。
「リーダー!」
呼び掛けにハッとする。
「恐らくあの道を抜けた先です!」
陰りの先の光が示すのは。
「……ああ!」
示すのは。
「……!」
――美しい花園だった。
優しく淡い色を抱いた花々が余すところなく地面を覆い尽くして何処までも、何処までも。
見惚れたが程なく現実に引き戻される。ひと足早く駆けつけていたダークアイクが振り向いて此方に気付いた。相方であるダークマルスは小さく肩を震わせる子どもを寂しそうな眼差しで見下ろして、ただ頭を撫でている。
「……ごめんなさい」
もう何度目だっただろう。
「タブー様」
その度にダークマルスは繰り返す。
「……貴方のせいじゃない」