第六章
体重がかけられる。みし、と軋む。
……そして。
「ああぁあああぁああああッ!」
踏み下ろしによって右腕の骨が砕かれる痛みというものはただの激痛と例えられないそれだった。表面の皮膚は繋がっているのに押し潰されたそこは視覚的には不自然に平らになってしまっている。
悲痛な声が空を劈く。
「ぁ、あぐ、」
吐き気は直ぐに襲ってきた。目尻に涙を浮かべて左手で口を押さえ込むが、耐えきれず頭を垂れて嘔吐。一瞬で何もかも搾り取られるような感覚にいっそのこと意識を手放してしまいたい程だった。
程なくロックマンの青い装甲は光となり弾けて変身が解除される。
草地に広がっていく赤い血溜まりが生々しく。ぼやけた視界に捉えても尚それが自分のものだと信じられなくて。
「あはははっ」
敗北を認めたくなくて。
「あはははははっ!」
水を打ったように静まり返るその場所に高らかな笑い声が響き渡る。
「クレイジー」
それを制するように声をかけたのはその兄マスターだった。
「弄んでやるのは勝手だがお前、そんな悪趣味なことが好きなのか?」
「まさか」
初耳といった様子で怪訝そうに問う兄にクレイジーは思わず笑う。
「ぜーんぶ嘘。僕が好きなのは初めから兄さんだけに決まってるじゃない」