第一章
――紫の靄と霧が何色とも判別つかない地面を覆い隠す。
空に太陽や月といった星々が窺えないのは無論、ここが現実ある世界とは隣り合わせの裏世界だからだろう。人間が普通に生きていれば足を踏み入れることのない、手付かずで空っぽ、何もないゼロの世界。
亜空間。
黒塗りの巨大研究施設。
そこが“この世界”を生み出した双子の主の住処だった。
「じゃじゃーん!」
赤髪の少年がぱっと手を広げた。
「というわけで、撮影用に衣装を仕立ててもらったんだ」
動きやすいように薄い生地で作られた赤のガウンに金のトリムのホワイトシャツ、膝上青のバルーンパンツに白のストッキングと黒のブーツ。極めつけは頭に被せた立派な冠と、まるでおとぎ話に出てくる王様のよう。
「どう?」
「露骨すぎ」
呆れたようにスピカが言った。
「だと思った」
共感を重ねるのは先程の少年と瓜二つだが、此方は青い髪の少年。
「無理に着飾ると却って間の抜けた風に映る。いつも通りでいいだろう」
「えー、つまんないなぁ」
赤髪の少年の体は一度白い光に包まれたかと思うと普段の衣装に戻って。
「……それで? どうだった? 新部隊さんの歓迎式典は」