第六章
気付いた時にはもう遅い。
貴方を仕留める刃は目の前にある。
ばちばちと電気の擦れる鳴き声を上げて引いた剣は兄の持つそれと同じ。奇襲を仕掛けたのはルフレだった。
作戦Bに移行したその瞬間から私たちの狙いはクレイジーハンドじゃない。
あの化け物に正面から仕掛けたところで圧倒されるだけ。それを身を以て知ったからこそ標的をマスターハンドにシフトした。注意を引きながら位置を、視線の先を調整しクレイジーハンドの視界からマスターハンドが完全に外れたところで黒煙による一時的な視覚情報遮断。
それが例え数秒だって構わない。
この一撃は必ず届く。
届かなければ意味がない。
力の根源と成り得る愛する兄のマスターハンドを仕留めてしまえばいくら全てを破壊し尽くす化け物といえど攻撃を即時中断し降伏をせざるを得ない。
全ては読み通り。私は剣を振るう。
彼を。――兄さんの仇を!
「忠告はしたからね」
鈍い音が温かく。
側で蒼い髪が微かな風に揺れた。
「……え」
こふ、と込み上げてきたそれを吐く。
ぽたりぽたりと草地に滴り落ちるそれは紛うことなく赤く。赤く。