第六章
「……ウルフ」
目元に影を落としつつ。ぽつりと小さく呼べば相手はそのひと声に込められた命令に静かに頷いて素直に応じた。
立ち上がり、振り向きざま虚空に銃弾を数発撃ちこむ。特殊な弾は残らず虚空に呑み込まれたかと思うと、内側からこじ開けるようにして大きな穴を開けた。
開いた穴の向こう側には青紫の不気味な色合いの世界が広がっている。察知して動こうとする隊員をロックマンが冷静に手を差し出して留めた。
マスターとクレイジーは依然として口を閉ざしたまま。迷いを拭い去れずほんの一瞬だけ視線を遣るスピカだったが内に秘めた思いを吐き出すこともなく。
静かに足を踏み出して。
開いた穴の向こうの世界へと消えた。
「……何故、彼女がイレギュラーだと」
ロックマンが口を開く。
「この世界に存在しうるものは徹頭徹尾余すことなく全て創造の主たるこの俺、マスターハンドのものだ」
弟の髪に優しく触れてマスターは冷たく視線を上げる。
「なら。先の操作で唯の模造品であるはずのお前たちが強制コマンドから容易く抜け出して動けるはずもない」