第五章
何が、と返すよりも先。
「亜空軍のこと」
……リーダー。
傍のその人が目元に暗く影を落とすのを見て何となく察した。彼女に返答に困るようなことを聞かれたのだろう、と。
黒い狼の耳が際立つダークシャドウの男ダークウルフは現在、妹と通話中であるその人の傍らでプレッシャーにならないよう静かに目を見張っていた。
実の妹が属する正義の部隊とは対極的な位置にある亜空軍。新世界創造計画を企み正義に仇なすそれは即ち悪の組織。
立場こそ苦行だろうがそれでも彼自身が選んだ道だ。けど或いはその内に秘めた優しさで全てを無理矢理呑み込んでいるだけではないだろうか。
哀れんで庇っているだけなのでは――
「ピチカ」
その人が口を開くのを。
ダークウルフはじっと見つめた。
「……俺は」
耳を澄ませる。
「あいつらが本当に正しいことをやっているのか分からない」
兄はゆっくりと答えた。
「前科もある。沢山の人間を犠牲にしてその上で嘲笑った。世間一般の視点から見ても許されることじゃない」
でも。ひと言置いて紡ぐ。
「俺が信じたいのはあいつらなんだ」