第五章
言葉を返そうとして呑み込んだ。
「俺は隊長だ」
静かに告げられる。ロックマンは口端を緩く吊り上げ薄い笑みを浮かべて。
「部隊を率いる立場の側である人間が。隊員の前で同じ台詞は吐けないさ」
それが、彼の答えだった。
暫し遠退いていた音が現実を知らせるかのように戻ってくる。尚も忙しく通路を駆ける音と相談する声は今日という日に限らずもう数日は続くのだろう。
「ひとつだけ」
目元に影を差して口を開く。
「あの時」
忘れもしない。
焼き付いた映像が脳裏を過る。
「彼が死ななくてよかったと思った」
言葉を紡ぐ。その人は片時も目を合わせようとはしなかった。
「……拙者の仕事で御座る」
まだ傷の癒えない右手首を無闇に晒してしまわぬよう袖を掛け直して。
「だから隊長は」
ミカゲは微笑を浮かべる。
「何も気にかけなくていいで御座るよ」