第五章



はあっ、と。

息を吐き出して飛び起きる。……まるで夢の中での息苦しさが現実世界にまで影響を及ぼしていたかのようで大きく呼吸を繰り返すたび酸素で肺が満たされた。

それがようやく落ち着いた頃。

恐る恐る自分の胸に手を置いて呟く。

「……、夢……」


着替えを終えて部屋を出ると妙に屋敷の中が静まり返っていた。こういった気分の悪い目覚めをした後は誰かさんのおふざけや悪戯に笑わされてさっさと現実に戻されたいものだが。

のろのろと廊下を歩いて今日という日は誰とすれ違うことなく目的の洗面所に辿り着く。そうして洗面台の前に立つと早速蛇口を捻って水を出した。手のひらで掬い上げた水を顔に押し当てる。冷たい水が今日は心地よくて。

顔を上げる。

鏡に映り込んだのは自分の姿。

「……、」

まだぼさぼさの金色の髪を濡れた手で直しながらじっと見つめたその双眸は父によく似て黒かった。そうしてそこにいるのが間違いなくルーティ・フォンという少年だと知ってひと安心する。


……変な夢だったなぁ。


「ルーティ!」

びく、と肩を跳ねた。

「フォックス?」

どうも自分を探し回っていたらしい浅く息を弾ませる彼にきょとんとして。

「ど、どうしたの?」
「説明は後だ!」

フォックスは慌てた様子で。

「リビングに来てくれ!」
 
 
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