第一章
ぼやけていた視界が次第にはっきりと現状を映し出す。
目の前には砕け散ったグラスの破片。その傍で銃を構えたウルフが天井に向けて発砲を二発。彼の頭に生えた大きな狼の耳が音を拾い、分かるのだろう、追うように銃を向けて発砲を繰り返した。照明を撃ち抜き、割れる音。本当、大惨事だ。
「くっ」
逃げられた。ウルフの表情と洩らした声にそれを察した。
刹那どたどたと外の通路を駆ける音が聞こえたかと思うと扉が勢いよく開かれた。ようやく警備の人間が駆けつけたらしい。
「大丈夫ですか!」
警備の男が声を上げた。
ルーティはその場に座り込んだまま、自分の手を見つめた。切った、とはいっても大したものでもない。舐めておけば治る程度だ。
「ロック隊長!」
ふと声のした方を見る。
「すまない、駆けつけるのが遅れて」
「お前たち……会場には招待された人間しか入れないはず」
「緊急時に何を言っているの。就任したばかりなのに」
少女は続けた。
「……こんなことって」
フードを被っているのではっきりとは窺えなかったが、どうやら彼らはフォーエス部隊の隊員らしい。リーダーのピンチに駆けつけるなんて、優秀だなぁ。