第四章
「サインください!」
戦局を変える双生の天才軍師。
「僕はこの魔道書の……ここに!」
「じゃあ私はこの背表紙の隅の方に!」
「あはは……」
まさかの出落ち二回目。
入室して早々それぞれの魔道書を差し出してきらきらとした眼差しを向けたのは双子の兄妹マークとルフレである。
そしてそれを受けるのは昔アリティアの再興を図っていた際に彼ら二人に知恵を借りたというマルス。
「……はい」
さらさらとサインをして差し出す。
「ありがとうございます!」
複雑な心境である。
「今日の任務が夕方からでよかったわね兄さん!」
「こんな機会に恵まれるなんて、夢にも思わなかったよ!」
……とはいえ。こうして何も知らずそれこそ子供のように無邪気に喜んでくれるというのはやはり何物にも変えられない心地の良さというものがある。
思わず本来の目的も忘れてマルスが顔を綻ばせていると。
「そうだ」
ルフレは思い出したように。
「ロイさんって、確かバトレンジャーのファンだったわよね」
……。
「サイン貰っておいた方がいいかしら」
「そうだね。ならマルス王子の分も」
「いやそれはちょっと」
えっ? 振り向いたマークとルフレから即座に目を逸らす。自分で自分の書いたサインを貰うのは遠慮したい。