第三章
と。それまでスピカを見下していた蒼海の瞳がゆっくりと持ち上がった。ダークウルフははっとして固く瞼を閉ざす。
「そうか」
ふと小さくこぼれたひと言によってその場の空気が一気に緩んだ。足を退けたのと同時にスピカはぐったりと地面に身を預ける。浅く息を繋いでいる辺り、どうやら首輪による拘束が止んだらしい。
「よかったねぇ」
クレイジーはへらへらと笑って、
「感謝しなよ?」
すっくと立ち上がる。
「……良心的な部下共に」
双子が扉に向かって歩いていくのを変わらずダークシャドウの三人は同じ姿勢のままじっと待機していた。慕うべき相手の弱々しい呼吸音が胸を締め付ける。
早く。直ぐにでも駆けつけて――
「ダークウルフ」
空気の色が変わった。
視線。胸の内の鼓動が次第に大きく。
自分の直ぐ横で足を止めているその人の足下を視界の端に捉えて。おずおずと。視線を上らせていき。
そして。
「メンテナンスはあと三十分先だよ?」
見下して捉える。
浮かぶ真紅の瞳に声もなく。
「今回は見逃してあげる」
す、と視線を戻して。
「次があると思うなよ」
「……肝に銘じておきます」