第三章
「る、」
言いかけて息を呑んだ。その先。
彼女の視線の先に。
深い夜のような紺碧の髪を靡かせて。
赤い瞳が冷たく視線を返す。
「我らダークシャドウに仇なすもの」
振るった剣に銀の光沢を走らせて。
「……抹殺」
ひと睨みいただいたその刹那全身を刺すようにして殺気が襲いかかる。それが例え一瞬なれどルフレは表情を強張らせて即座に構えをとった。影が揺らめく。
「そこまでだ」
今にも飛び出さんとしていた影の行く手を阻むように黒の雷は落とされた。影は攻撃の体勢を緩めて見上げる。
「何故」
淡々とした口調で。
「あれは我らに仇なすもの」
「命令に背くな」
「マスター様とクレイジー様の御意向」
スピカは小さく息をつく。
「……いいから戻れ」
機械と話しているみたいだな……
影と称したそれは少女の形を成していたが時折真っ黒に染まり端々がゆらゆらと煙のように揺らめき瞳の赤ばかりが不気味に浮かぶ瞬間があった。誰が訊ねるまでもなく恐らくそれはダークシャドウと同じ仕組みの幼体なるもの。
だとしたら。
一体、誰の影だというんだろう――?