第一章
かちん、かちんとグラスを交わす音が所々で響いた。
知らぬ人間と乾杯するというのは、こう、慣れないものだ。
「くだらねえ」
ひと口飲んだウルフが言った。
「どいつもこいつも、正義ときたら宗教じみたことを抜かしやがる」
「そうかなぁ」
ルーティもひと口くらい頂いておこうかと思ったが、グラスに鼻を近付けて、つんとした独特な匂いに気が引けた。自分にはまだ早い気がする。
「単純に凄いと思うけど」
「てめえは直前になって演説の内容を忘れそうだな」
思わず、うっと声が洩れた。
「ルーティ!」
相手は此方が気付くようそれなりの声を上げたのだろうが、ざわめく会場の中ではやはり少しばかり抑えられて、ルーティも声の主を探して見回すばかりだった。
と、逸早く声の主を見つけたウルフが顎でしゃくって。
「あっ」
振り返ると。その顔には見覚えがあった。
「アレスレッドさん!」