第三章
「あっ」
思考を巡らせながら伸ばした手が重なって。ルーティもその人も思わず声を揃えてぱっと手を引いた。
「マークさん」
偶然同じ任務内容に惹かれて用紙に手を伸ばしたのはマークだった。
「……“さん”はいらないよ」
目が合うと小さく笑って、
「マークでいい」
「うん」
ルーティは肩を竦めた。
「……えっと、依頼受けるの?」
「そうだね」
答えた後でマークは悩ましげに眉を寄せながら振り返る。
「どうしようか」
「そうね……」
「わ、えっ遠慮しなくていいよ!」
「そうじゃないのよ」
ルフレは不安げな表情を浮かべて依頼用紙を指差す。
「ほらここ。“作戦途中で第一級任務に切り替わる可能性有り”ってあるでしょう? 私たち、今回受けるのが初任務になるから不安で……」
そういうことだったのか。
彼らの実力については先日のトーナメントで充分に証明されている。逆に何を不安がるのかと返してやりたいところだがこれが初任務ともなると緊張や今のような不安から実力の半分も出し切れない可能性があるのだ。
というより――ピチカはああ話したが実際自分は彼らの緊張の糸が解けたところを目にしていない。今みたいに躊躇いを見せなければ逆に此方が不安になっていたところである。
ちなみに第一級任務とは上位の前線部隊にのみ開放される特殊任務である。任務を達成する為ならどんな手段を使っても構わない。どんなに正義の名にそぐわないやり方だろうと罪は問わないが任務遂行中に出た犠牲について国は責任を取らない。
今回の任務は第二級任務、作戦途中に第一級任務に切り替わる可能性がある為、上位前線部隊でなくとも受注可能だ。だからこそ彼らの目に留まったのだろう。