第二章-後編-
「――ッッ!」
ゆらり、その身体が揺れた次の瞬間。
音もなく軽く地面を蹴り出したそれだけなのに砂塵を巻き上げ恐ろしいスピードでリオンは向かってきた。すかさずルーティが飛び出して応戦。勢い任せに突き出された拳は大振りだが青い靄を纏っている――肉眼でも分かるほどの溢れるばかりの波導。ふっと躱して隙に打ち込もうと拳を引くがそれより早く蹴りが飛んできた。先程とは最も比べ物にならない速度に躱すだけが精一杯で息が詰まる。
と。リオンが右足を後ろに引いて踏み込んだ。体を倒しつつ引いた右手に青く暗い波導を纏わせながら突き出し、エネルギーを放出する技――発勁(はっけい)。
咄嗟に体を反らし躱したがダメージの蓄積により波導が高まっている効果もあって攻撃範囲も普段と異なる。結果として衣服の襟や胸ぐら辺りが焦げ付きルーティは顔を顰めた。何とか返さなければ――そう思ったのも束の間。
死角から伸びてきた手が肩を捕らえて。
「ッ……か……」
波導を纏った右手のひらが胸を突いたのはその直後だった。胸を突くそのタイミングで肩から手を離すものだからルーティの体はまるで押し出されるようにして遠く吹き飛ばされて。地面を跳ねて転がった先――崖。
手放しかけていた意識はそこでようやく取り戻して場外に体を投げ出されるよりも先に手を伸ばし何とか崖に掴まった。大きく息を吸うと骨が軋むのが分かる。
痛い。これはもしかして。
「だいぶ身体が火照ってきたのではないかウルフ殿?」
声が聞こえる。
「優しく解放してやりたいところだが生憎、飼い主がやきもち焼きなのでな」
砂利を踏み込む音。
「――ご退場願おうか」