第一章
しまった。ルーティは咄嗟にそう思った。
扉を開いたそのタイミングで声の主が話を終えたのだ。しんと静まり返った会場の中では扉の軋み開く音がよく響いて、一斉に視線が飛んでくる。間違えました――なんて今すぐにでも閉めてしまいたいような情けない衝動に駆られた。
「……ぁ」
どう言えばいいものか。
「これはこれは」
その時、一人の男が声を上げた。
「特殊防衛部隊『X部隊』のリーダー、ルーティ・フォン」
視線を移して、
「……それから後ろはパートナーのウルフ・オドネル、だったかな」
ルーティは思わず目を丸くした。
「司令官……」
以前会った時よりも随分と老けてしまったようで気付くのに間が空いた。
といっても酷く老衰したというわけではなく、前回にはなかった無精髭や皺が多少目立つようになったというか。さすがの司令官も寄る年波に敵わず、身嗜みに気を遣うのが面倒になってきたのだろうか。
「よく来たね。待ち兼ねたよ」
「いえ。……その」
「気にすることはない。君たちはこの国のトップ部隊だ」
司令官は言った。
「寧ろ多忙だったところをすまなかったね。感謝しているよ」
ルーティはぎこちなく笑った。
……これが単なる寝坊とは口が裂けても言えない。