第二章-前編-
それにしても。八人乱闘というのは壮快だ。
見渡す限りが敵ではあるが、それだけに片時も油断ならない。戦士として、自身の手が相手より上回るからと自信過剰になるのは戦場において最もあってはならないことだ。その油断が結果として敵に背後を取られ、望まない敗北を招く。
今回のトーナメントはそれを何より強く訴えかけてくる。
だからこそ面白い。心が浮き立つ。
人として?……いいや。――一人の戦士として!
「兄ちゃん!」
剣による攻撃を弾かれ大きく仰け反ったところ、声。
トゥーン、と応えようとしたがそれより早くガノンドロフの蹴りが鳩尾に深く入った。堪えきれず声にならない声を吐き出して蹴り飛ばされる。二度、三度地面を跳ねて崖際に到達。地面を引きずったリンクの体は見事、擦り傷に切り傷だらけで。
「っは」
息を吐き出して上体を起こす。体の節々が痛い。
頬の一線を指の背で拭ってその時生じた小さくも鋭い痛みに肩を竦める。
「……?」
拭われた赤を見つめて。あれ、と。
此処は、本来の世界と異なるバーチャル世界。
そこで負った傷も試合を終えれば跡形もなく消滅する。痛覚や疲労は確かにあるが現実には決して引き継がれない。
……けれど。
「血なんて出るはずが――」