第十章-後編-
森の中をふらふらと彷徨う黒ずくめの男が一人。
――その男こそダークリンクだった。右腕に受けた大きな傷を庇いながら息も切れ切れに宛てもなく。いや、宛てがあるとすれば何処か安全な休める場所か。
「……くそ」
結局その時近場にあった木の幹に背を預けてずるずると座り込んだ。
――羨むだけならまだいい。けれど気性の荒い魔物はその感情が妬みに変わることもそう少なくなかった。それでも返り討ちにするのは容易いが、今回のように痛手を負わされてしまうことも少なからず、ある。といっても多くは、自身の能力に対する過信からの油断という完全な自業自得だが当然反省して学ぶはずもなく。
放っておけば治るものだがこれだけ深ければそれ相応の時間を要する。傷を負ったまま城に戻るというのも格下どもに格好が付かないし、その上で魔力の供給による治癒を魔王に要請するのも気が引ける。きっとこの失態を嘲り見下すことだろう。
……嫌な欠点だ。無くてもいいのに意地を張りやがる。
「旅人さん?」
瞼を閉じてほんの数秒、聞こえた声に慌てた。
「くっ」
剣を抜こうとするも傷を負っていたのは残念ながら利き腕。
「ッ、ぁ」
覗き込んでいた少女は目を開いた。
「大変っ怪我してる!」