第十章-後編-
デスマウンテンに巣食う悪しき竜ヴァルバジアを倒した、あの日。
晴れ渡った空の下、彼は現れた。あの時の彼は確かに光を浴びたところで平然としていたはずだ。それに違うのは何もそれだけという話ではない。
「……契約がどうとか言っていたな」
ダークリンクはばつが悪そうに顔を背けた。
「ああそうだよ」
腕を立てて自ら体を起こし、案じて伸びた手を払い除ける。
「俺はマスターハンドと契約を交わした」
右足を立てて膝の上に右腕を掛け、短く息を吐き出す。
「自由になりたかった」
どうしてと聞かれるよりも先ダークリンクははっきりと言った。
「……知ってんだろ」
語り出すダークリンクに目を見張る。
「このカラダは魔王ガノンドロフの魔力によって作られた勇者リンクの偽物だ。能力は申し分ない、おまけに影を操るワザまで与えられた」
誰よりも人間に近く、そして強かった。
魔物の全ては俺を羨んだ。
でも。
それは魔王の鎖に繋がれた上、勇者と王女を殺しトライフォースを捧げるという使命の元に成された、奴ら以上に血生臭い運命を背負うというものだった。
魔王の供給なくしては生きられない。
別によかった。
自分には生きることに関して何の拘りもなかったから。
そう。あの日が来るまでは。