第十章-後編-
真っ直ぐに見つめるその瞳が、その辺にしておけと暗示をかけていた。
時が止まったような感覚。見なかったことにして目を背けてしまえばそれで彼らは許すだろうか。先の見えない戦いは幕を下ろすだろうか。
――俺は。
「兄さん!」
何が起こったのか分からない。
踊るように青い稲妻が辺りを跳ねるのを覚えている。
無我夢中で。
藁にもすがる思いで体を前へ、腕を伸ばして。
……どうなった?
「兄さん!」
クレイジーは空を飛んで空中で静止しているマスターの元へ駆けつけた。
「っ兄さん、血が……」
大穴の開いた檻が背後に聳えていた。砕けた鏡の破片が辺りに散らばっている。
マスターは赤い線の入った頬をそっと手で触れて呟いた。
「……大丈夫だ」