第十章-後編-
……やれやれ。
物凄い音が響いたので目を向けてみれば、やっぱりだ。挑発に乗せられて殆ど、いや全ての攻撃が躱されている。戦闘に関して美しく熟せとまでは要求しないが実の弟があんな調子ではさすがに目に余る。
「っと」
余所見している場合でもないか。
――強い。率直にそう思った。
仕掛けた全ての攻撃をのらりくらりと躱されるか防がれ、それでいて当の本人は視線が明らかに外れている。これでは弄ばれてるも同然で非常に滑稽だ。
突きを繰り出したがその姿はふっと消えて、気配を察知して振り返ると今度は瓦礫の上に立っていた。此方は息を弾ませているというのにあちらは何食わぬ顔で。
「マスター!」
勝負をしている側としてさすがに苛立ちが込み上げてくる。
「真面目に戦ったらどうなんだ!」
こうして呼びかけている間もマスターはちっとも此方に視線を寄越さない上、攻撃さえ仕掛けてこない。くっと眉を寄せてラディスは頬に電気を走らせた。
「……そろそろだな」
不意にぽつりと呟いたのでそれも引いた。
マスターの右手はようやくのこと動きそれに見惚れていたのだ。此方とは対照的に激しい音を響かせぶつかり合い、戦っているダークリンクとクレイジー。そちらに向けて右手を突き出し、上向きに手のひらを傾けて――指を鳴らす。
と、同時。青く瞳が瞬いて。