第十章-後編-
もう、こんなにボロボロだったのか。
少しも動きたくないくらい、体が痛くて重い。……それにしても。
彼はどういうつもりなのだろう。
目を瞑っていたので正しく状況を把握しきれていない節があるだろうが、迫り来る刃を斬って落としたのは恐らく彼だ。そしてマスターの構え、その表情から攻撃を返したことが窺える。
その行動のひとつひとつが、彼自身のメリットとは繋がらない。
彼は誰より何より絶望を深くこよなく愛す。
なら、何故。
「気に食わねぇんだよ」
ダークリンクは答えた。
「てめえら餓鬼共の甘ったれた世界観がなぁ」
マスターとクレイジーは共に肩を並べて視線を鋭く返す。
「平和ってのは絶望あってこそだろぉ? てめえら餓鬼共の望みは俺の娯楽と合致しねぇ……満たされねぇんだよ」
……ああ。
「人間様特有の“欲望”が」
そういうことか。
彼らの望みは謂わば遊園地のようなものだ。好きなものを好きなだけ傍に置いて、逆に害するものは無いものとして即刻排除する。けれどそれでは確かに、彼の望む絶望は生まれないのだろう。
――欲するものを淡々と与えられ、それを平和だと人が思い込んでいる限りは。
「それに、だ」
ラディスは顔を上げる。
「……気に食わねぇ点がもうひとつある」