第十章-前編-
ぽたり。赤の雫が――滴る。
カービィは震えながらその手を離した。身を呈して庇おうと膝を付きマルスを抱き締めていたロイは、反射的に閉じていた瞼を恐る恐る開く。
「……クレシス」
呆然として呟くマルスに釣られてロイは振り向いた。
剣は、止まっていたのだ。
具体的には。クレシスの右肩に刺さっていた。
庇うべく差し出した右腕を斬り落として。
「ぁ……あ……」
ぽつぽつと洩れる声からは。違う、こんな筈じゃなかったと嘆きの意が込められているのが目に見えて。
一歩、また一歩と後退して静かに首を横に振る。
「クレシス……」
「……いい。大丈夫だ」
「でも、お前」
「大丈夫」
自分に言い聞かせるように。痛み堪えて、はっきりと返す。
ロイは言葉を呑んだ。クレシスは震えながら左手を伸ばして、まずは刺さっていた剣を抜いた。栓を抜かれ、ここでも血がぼたぼたと溢れてこぼれる。強烈な痛みに悲鳴を上げたいが息を呑んで殺し、軽く振るった。ぴぴっと床に血が跳ねる。