第十章-前編-
彼らは正しい。
それだって自分が一番よく分かっている。こんな状況だからこそ戦士は戦場へ赴き戦うべきであって、一般市民に危害が及ばぬよう立ち回らなくてはならない。国が抱えた命を失わない為に、例えどんな理由があったとしても。
それは当然で。必然で。
今まで憧れてきた戦士の正体なのに。
「そんなことないもん!」
ラディスははっと顔を上げた。
「ヒーローは遅れてやってくるんだもん!」
声を上げたのは頭に包帯を巻いた小さな女の子。
「カンパンマンも、キュアキュアもそうだったもん! おじさん知らないの!?」
「お、おじっ……!」
子供には戦況がどうなのか分からない。
「ちょっとユフィやめなさい」
「やだやだ! 悪いのはおじさん達でしょ!」
ただ真っ直ぐ見つめる。疑わず、直向きに。
「悪い人にはヒーローもサンタさんも来ないんだから!」
――信じて。
「ユフィ!」
母親らしき女性がぴしゃりと名を呼び付けた。
「……ったく」
女性が申し訳なさそうに女の子の手を引いて頭を下げるのを、先程の男はばつが悪そうな顔をして見つめ、ぼやく。
「子供の躾くらいちゃんと――」
「聞いてください!」
次に声を上げたのは。
「寝てる方もいらっしゃいますから……」
「す、すみません」
女の子と違って格好の付かないラディスだった。