第十章-前編-
……妙に、静かだった。
まさか誰も居ないのかと勘違うほど。事実、ざっと部屋を見渡した程度では人影に気付けなかった。それは彼らが床に座り込んでいたのも原因だろうが……
「きゃっ」
ゼルダが短く悲鳴を上げた。
視線の先を辿ればそこにはまだ真新しい血痕がべっとりと。その近くで座り込んでいたのはマリオである。凝視するまでもなく、彼だ。やられたのは右肩だろうか、服に赤々とした血が残っている。
ラディスは双子、マスターとクレイジーに接触したと言っていた。それでこの状況ということはあの馬鹿やっぱり怪我人がいるんじゃねえか!
「マリオ!」
指示するまでもなくピーチが真っ先に駆け出した。
「もう大丈夫よ、すぐに止血を」
ピーチはマリオの右側に回って両膝を付き、肩に手を翳した、が。
「……いい」
あろうことか、マリオはその手を払ったのだ。
「……大丈夫だから」
――負傷しているはずの、右腕で。
「大丈夫って、あんた」
他の四人は痕跡が見られない。
もちろんラディスも怪我はしていなかった。仮にこれがマスターまたはクレイジーのものだったとして、それでも返り血が肩の付け根の部分にだけ付着するなんて、明らかに不自然というより有り得ない。
「……こんな時に」
ピーチはむきになってマリオの右手を取った。
「いいから見せなさい!」