第九章
理想の、世界――
「戦争とかイジメとか、今の“この世界”って醜いじゃん」
血溜まりの中に突っ伏す亡骸や、瓦礫の町がフラッシュバックで映し出される。
「そんなの、僕たちに相応しくない」
クレイジーは左腕を広げた。
「――だから綺麗にしてあげるんだ。僕が不要なものを壊して無くしてその上から兄さんが新しい物で蓋をする。歪でもさ、少しはマシになるだろ?」
そうかもしれない。
この世界をより良い形へ正してくれるのならそれでいいんじゃないか。
……いや、違う。
そこには軌跡がある。誰かが戦ってきた、確かな軌跡が。
様々な想いがそこには生きている。
それを不要なものとして“無くす”ということは――
「待ってくれ! そんなこと、」
「ああ、安心しなよ。あんたたちは殺さない」
クレイジーはにっこりと笑った。
「……何もしなければの話だけどね」
蛇を模した殺気が絡み付いて牙を向ける。
思わず、息が詰まった。
「新しい世界で仲良くしようよ。その為に作ったんだ、歓迎するからさ」
動かない。
「ぁ」
また届かないのか。
「待って、」
右手の人差し指で宙にくるっと円を描いて。
現れた、渦巻くホールの中へ。
「待ってくれマスター!」
ただの一度も振り返ることはなく。
少年たちはその奥へ足を進ませ、消えていった。